2013年01月15日

『駒.zone vol.6』



公開約一週間、多くの方に読んでいただけているようで嬉しいです。

今回は今までになかった詰将棋の記事があったり、チェス小説があったりと新鮮さもあるのではないかと思います。

次はvol.7の前に紙の駒.zoneを作る予定です。
初めての試みなのでどうなりますか。
皆様、ご協力よろしくお願いいたします。
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2012年08月22日

『駒.zone vol.5』



公開しました。
今回は文字成分多めとの噂です。
お暇な時にどうぞ。
posted by らくは at 11:11| Comment(0) | ★紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月29日

銀と青の空 下

 二時間に一本の電車なので、遅れるわけにはいかなかった。
 必死で走ってくる長身の少女は、シュウにとって初めての私服姿をしていた。青いパーカーだった。
「ごめんなさい」
 息を切らせながら駆け寄ってきたツバサの髪は、いつものポニーテールではなかった。肩までで、ばっさりと切られていた。
「おしゃれ?」
「ううん、動きやすいように」
 シュウにとっては久しぶりの、そしてツバサにとっては初めての合同練習だった。戦争を免除された高校生たちは、市を単位として一つのチームを作る。普段は自校で練習するが、時折大会に備え一箇所に集まって練習する。
 電車はがらがらだった。乗るべき人々が田舎に避難しているからだ。半分以上は若者で、大体はがっしりとした体つきをしていた。
 四つ目の駅で下り、無人の改札を抜けると、一台のマイクロバスがロータリーに止まっていた。すでに何人かの長身の少年少女が乗り込んでいる。
 シュウとツバサもそのバスに乗り、十分ほどで目的地に着いた。市民体育館だ。
 皆、地元で小さいころから活躍していたせいか、誰もが見知った顔だった。ただ、同じチームになったのは半年前からだ。
 メンバーは、男女それぞれ八人ずつ。軽いウォーミングアップをした後、男女混成チームでの紅白戦が始まった。シュウとツバサは別のチームになった。
 ゲームは淡々と進んだ。皆、作業をこなしているようだった。誰も声を出さなかった。
 それでも、シュウは楽しそうだった。ツバサのはずしたボールのリバウンドを奪い、親指を立てて見せた。
 電車の時間があるので、練習は夕方で終わった。一行は再びバスに乗り、駅まで送られた。
 そして一同は、呆然とした。改札の前に、張り紙がされている。
〈都合により、本日の営業は終了いたしました〉
 すでにバスは走り去っている。タクシーは三ヶ月前に姿を消してしまった。
 若者たちは、歩いて帰るしかなかった。
「静かですねぇ」
 そんな状況下でも、ツバサは能天気に笑っていた。
「考えたんですけど、宇宙人って、本当に都会を狙うのかな。田舎が安全とは思えないんですけど」
 シュウは空を見上げ、首をかしげた。赤い夕焼けの中に、銀色の月が浮かんでいる。
「田舎を襲うのは、かっこわるいんだろうなぁ」
「まあ、田園を守るヒーローは見たくないですね」
 日が暮れても、二人はまだ家路の中だった。街灯は半分が切られている。通る車も少ない。
「すっかり夜ですね」
「ああ」
 周囲の建物も暗い。子供たちは部活、大人たちは逃避。
「手、いいですか」
「ああ」
 二人の町は、まだまだ遠い。


 学校のパソコン室は、昼だけ開放されている。早めに登校してきたシュウは、そこでいつものページを開いた。
「……あ」
 政府は、戦死者の情報をできるだけ速やかに公表している。今でもまれに、子供が死んで悲しむ親がいるからだった。
 そして、悲しむ友人はそれよりも多い。
 チームメイトの名前を見つけたシュウは、しばらく視線を動かすことができなかった。
 そして、肩を叩かれた。
「シュウ」
 振り返ると、松葉杖をついたクラスメイトがいた。
「どうしたんだ、アキラ」
「事故さ。めったに通らない車にぶつけられた」
 アキラはシュウに、右手を差し出した。困惑しながらシュウは、その手を握り返した。
「お別れだ。俺はもう、野球ができない」
 手を離すと、アキラは部屋を出て行った。戦場に赴く青年の後姿を、シュウはまぶたに焼き付けようとした。


 窓を打つ雨の音が、いつまでも続いていた。
 朦朧とした意識の中で、シュウは中学時代のことを思い出していた。
 勉強も恋もせず、毎日バスケばかりしていた。
 決勝戦、40点差で負けて、皆で号泣した。
 引退後、目標を失い、とりあえず受験勉強を始めた。
 やる気がおきないときは、近くの公園にボールを持って行った。誰かがいた。バスケをした。
 頭が痛む。記憶が歪む。あのときの仲間が、頭に回路をつながれ、月面のロボットを動かしている。
 宇宙船が飛んでくる。必死に砲台を動かし、迎撃する。目標がずれ、敵機が突っ込んでくる。被弾。爆発。脳内に広がるノイズ。拡散し、目標を失うアイデンティティ。迅速な安楽死処置。
 高熱の中、シュウは見た。自分が行くかもしれなかった戦場。
 嘔吐しそうになるのを、必死で抑えた。両手に力を込めて、体を持ち上げる。何とか台所まで行き、水を飲んだ。
 誰かが、自分の体を縛り付けているような気がして、シュウは身震いをした。松葉杖をついた自分が、クラスメイトに頭を下げている光景が浮かんだ。よろよろとその場に倒れこみ、冷蔵庫の前で眠ってしまった。


 ニュースキャスターと、コメンテーター。いつもより暗い顔をしていることが、ツバサは気になった。
「……以上のように、三歳以内で二割、五歳以内で四割、七歳以内では実に七割の癌発症率となっています。松山さん、この事態をどう受けとめますか」
「実に憂うべき状態ですね。このデータが事実だとすると、人工胎盤から生まれた子供が成人する確率は一割を切るということですから、百万の子供を作るのに一千万以上の生産が必要になってしまいます」
「それだけのコストを公費で担うのはばかげていますね。それに、死ぬとわかっていて育成するのも理に適っていないように思われます」
「そうですね」
 なべの中では、たっぷりのおかゆがぐつぐつと泡を出している。ツバサはお玉で一口分すくい、味見してみた。
「うん」
 大きく頷いた。
「実際すでに、アメリカではこの報告を受けて召集令の撤回を検討し始めています。このことについて松山さん、日本の対応というものはどうなるでしょうか」
「ええ、人工胎盤の問題が改善されるまでは、若者たちに子供を生んでもらわないといけないわけですし、今すぐ召集令の見直しが必要でしょうね。このままでは、若者がいなくなり、私たちが老後にプロ野球観戦することもできなくなってしまいます」
「そうですね。私たちの娯楽の担い手を絶やさないためにも、若者を戦場から呼び戻すべきでしょう」
 おかゆとお茶をお盆に乗せ、ツバサはリビングまでやってきた。
「今の聞いたか、みんな戻ってくるかもな」
 ソファの上で毛布に包まったシュウは、鼻をぐすぐす鳴らしながら言った。
「だといいですね」
 テレビの中では、すでに別の話題が語られていた。窓の外は真っ青な空、銀色に塗られた月が浮かんでいる。
「未来のプロ野球が危機らしいですし、私たちも子供作りましょうか」
 おかゆをすすりながらシュウは、小さく笑った。


 いつまで待っても、電車は来なかった。
 シュウとツバサは、仕方なく近くのファーストフード店に入った。店員が足りないため、ドリンクしか売っていない。二人はそれぞれ、ホットコーヒーとアイスティーを注文した。
 店内はがらがらだった。
 突然、サイレンが鳴り響いた。ドリンクを作っていた店員は慌てて店の奥に引っ込んでしまった。
 見たこともないような強い光と、聞いたこともないような奇妙な音が突然降ってきた。二人は慌てて抱き合った。
 しばらくして、シュウはゆっくりと目を開いた。かなりぼやけていたが、それでも、周囲が何も変わっていないらしいことはわかった。腕の中のツバサも、しっかりと息をしている。
 窓の外も、何も変化がないように思われた。しかし、何かがおかしかった。シュウは次第に鮮明になってくる視界の中で、足りないものを探した。
「月がない……」
 ツバサが呟いた。
 言うとおりだった。空のどこにも、月が見当たらなかった。
 そして、遠くから灰色の群れがこちらに向かってくるのがわかった。テレビの中で見たことのある、宇宙軍の戦闘機が近づいてきていた。
「ツバサ……」
 シュウは、強く強くツバサを抱きしめた。
「先輩……」
 そして、ツバサも強く強く、シュウのことを抱き返した。


 収容所の体育館の中では、日本対ロシアの試合が行われていた。
 シュウは華麗なスリーポイントを決めると、隣のコートに目をやった。そこでは日本対アメリカの女子の試合が行われており、控えのツバサはベンチに座っていた。
 観客席の宇宙人たちは、ポイントが入るたびに拍手喝さいした。かれらは野球やサッカーの試合も喜んで見たが、特にバスケットボールがお気に入りだった。
 シュウはディフェンスに戻ると、リバウンドを拾い、再び速攻でゴールを奪った。体育館の中は大いに盛り上がった。
 試合をしているのは、全て若者たちだった。地球に襲来した宇宙軍は、大人たちを皆殺しにし、若者たちを捕獲した。
 宇宙人のふるさとに連れてこられた若者たちは、何らかのスポーツをさせられた。宇宙人は、新たな娯楽を求めて地球を襲ったのである。
 宇宙人の目論見どおり、大人たちから冷遇されていた若者たちは、宇宙人に敵意を抱かなかった。なにより、世界中の人たちと、思う存分ゲームができることがうれしかった。
 試合が終わると、シュウはツバサの元に駆け寄った。
「いい汗かいたよ」
「先輩、かっこよかったですよ」
 二人は、本当に楽しそうに、笑っていた。誰もが、笑っていた。
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posted by らくは at 22:32| Comment(0) | ★小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする